第32回「健康と経営を考える会」定例会開催レポート
「健康と経営を考える会」第32回定例会(会員のみ参加)を、会場(同友会ビル会議室 文京区)× オンラインで3月5日(火)に開催いたしました。
今回は、「人的資本投資」について学び、当会の軸となる「健康経営」「データヘルス」に活かすことを目的とし、①経済産業省産業人材課・川久保課長補佐より「企業価値向上に向けた人的資本投資」、②株式会社丸井グループ・小島取締役上席執行役員・CWOより「人的資本投資のポイントと企業の取組み実例」をテーマにご講演いただきました。
経済産業省産業人材課・川久保課長補佐 講演
企業価値向上に向けた人的資本投資
人材を巡る課題認識
デジタル技術普及等による産業構造の変化、生産年齢人口減少といった状況から、日本の経済成長及び企業の競争力を高めるには、人材の力を高めることが重要である。
日本の現状は、女性・高齢者の労働参加率は既に高い状況であるが、日本全体の労働力は減少している。ワークエンゲージメントは世界全体の中で最低水準にあり、「仕事に対する熱心さ」が低い状況にある。また、イノベーション創出に重要な多様性については、日本企業は低く同質性が高い(CEO内部昇格率、女性管理職比率 等)。人材競争力43位、国際競争力35位と低迷し、そのため賃金や労働生産性も伸び悩んでいる。
人的資本経営とは
これまで「人的資源=人は使う対象」であったところから、「人的資本=人材を投資の対象・投資してリターンを得る対象」であるという考えが、人的資本経営の根幹となるところとなる。人的資本経営を実現するには、「経営戦略と連動した人材戦略の実践」「人的資本を開示して投資家に伝える取組み」が重要となる。「経営戦略と連動した人材戦略の実践」には、「人材版伊藤レポート」のなかで3つの視点(以下)を提示した。
「視点1 経営戦略に沿って人材戦略を打つ」
「視点2 現状と将来の経営戦略実行の上で打つべき人材戦略を明らかにする」
「視点3 人的資本取組みを企業文化に定着させる」
人的資本開示にあたっては状況が悪いものも今後の改善策と併せて開示し、人材戦略のPDCAを回して推進していくべきものである。
人的資本経営の推進に向けた経産省の取組み
「人材版伊藤レポート」公表のほか、「人的資本経営コンソーシアム」設立、「人的資本可視化指針」公表を行っている。「人的資本経営コンソーシアム」には560社ほどの企業が参加し、取組みに関する議論、企業間連携推進等を行っている。「人的資本可視化指針」では、「人的資本投資の効果を分かりやすく」「4要素(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標・目標)に沿って」「各企業共通項目(管理職女性比率等)と独自性のある項目をバランスよく」開示することを示している。
人的資本経営の実践に向けたヒント
「人材版伊藤レポート」に示された取組みの中で、以下3点をご紹介いただきました。
- 「CHRO設置」:経営陣の中で人材に関する策定と実行を担う責任者を置く。
- 「人材に関するKPI設定」:業績の良い企業ほど人事部門の目標設定がなされている。
- 「社員エンゲージメント」:把握と向上の取組みが重要。
人的資本投資 その効果
現時点で、有価証券報告書での人事施策開示はTOPIX100の中で10%程度である。また、人的資本投資の経営資本へのつながりはわかりづらいところではあるが、投資家は人的資本投資と企業価値のつながりを示してほしいというニーズが高まっている。健康経営についても開示の重要性は同様である。
「管理職に占める女性比率」「男女賃金格差」や「従業員エンゲージメント」は、財務指標と相関があることが分かっている。
小島 株式会社丸井グループ 取締役上席執行役員・CWO 講演
人的資本投資のポイントと企業の取組み実例
人的資本経営のポイント
「今ある労働力としての人(人的資源)を大事にすること」ではなく、「投資により人が未来に生む価値を最大化すること」がポイントであることを、健康経営推進者として押さえておくことが重要だと思う。
人的資本経営と従来の経営との違いは、以下の点にある。
- 人材マネジメントの目的は、管理ではなく「価値創造」
- 人事マターではなく「経営マター」
- ステークホルダーに情報開示し双方向対話しながら進化
- 個人と会社が相互依存するのではなく「互いに選び選ばれる関係」であること
丸井グループの思想と取組み
丸井グループは、2000年代初頭の赤字により経営課題として企業文化変革が必要となった。「人」が価値の源泉であるので「自ら考え自ら行動する」企業文化となるよう2007年に経営理念、2015年に企業ミッションを変えた。目指すべき企業文化として以下を示した。
- 「強制」ではなく「自主性」
- 「やらされ感」ではなく「楽しさ」
- 「上意下達」ではなく「支援」
- 「本業と社会貢献」と分けるのではなく「本業を通じた社会課題の解決」
- 「業績向上」から「価値向上」
丸井グループのウェルビーイング経営・人的資本投資の拡大
すべてのステークホルダーの「しあわせ」を、ビジネスを通じて実現するウェルビーイング経営として進めている。5カ年中期経営計画でサステナビリティとウェルビーイングを目的とした「将来世代の未来」「一人ひとりのしあわせ」「共創のエコシステム」の取組みが財務価値につながり達成することを開示している。
新中計最終2026年までを投資回収期間とした場合の内部収益率は、有形投資10%に対して無形投資12.7%と高く、今後も人的資本投資を拡大することも開示している。
丸井・ウェルビーイング指標と次の課題「挑戦マインド向上」
丸井・ウェルビーイング指標として以下2項目を測定しており、2012年から2022年、10年間で改善している。
「自分が職務で尊重されている」:28⇒66%
「自分の強みを活かしてチャレンジ」:38⇒52%
しかし、経営理念「人の成長=企業の成長」としているところ、チャレンジ52%は低く「挑戦マインド向上」を次の課題と設定した。
ワークエンゲージメント分析でも「挑戦」度合いの高い方がワークエンゲージメントも高いことがわかった。
2023年から「挑戦と創造の文化」の進化を目指し、「社内版アプリ甲子園」といった挑戦の場を設ける、撤退した新規事業に携わった社員を表彰する「フェイル・フォワード賞」創設など、失敗を許容し挑戦を奨励している。
健康経営・データヘルスに熱心に取り組む会員団体の方、会場22名×オンライン27名にご参加いただき、盛況のうちに閉会となりました。