「健康と経営を考える会 Summer Seminar2023」開催レポート
「健康と経営を考える会」Summer Seminar2023を、電気ビル共創館3階・中会議室Bカンファレンス (福岡市中央区)にて、9月12日(火)に開催いたしました。
今回は、①『健康経営について時間をかけ じっくりと語り合う機会を創出する』②『健康経営のこれまでの経緯や最新研究について、渡辺・日本健康会議 事務局長、永田・産業医科大学 准教授からご講演を頂き、参加メンバーとの質疑応答、意見交換を通じ、理解を深める』③『福岡市、福岡県企業・健保、横倉・日本医師会名誉会長との意見交換、交流をはかり、健康経営の裾野を広げる』ことを趣旨として開催しました。
日本医師会 横倉名誉会長 挨拶
以前より当会代表理事二人がお世話になっている横倉・日本医師会名誉会長にご挨拶いただきました。ご挨拶主旨は以下となります。
「健康な社会をつくる」という理念を国民と共有し取り組むため、元・日本経済新聞社 渡辺論説委員を事務局長に、日本商工会議所の三村会頭(当時)とともに、2015年に「日本健康会議」を立ち上げました。「健康な社会をつくる」には、医療従事者のみならず国民皆様の協力が重要であり、また、健康経営の取組みは、生産性向上のみならず、従業員のウェルビーイング向上、明るい社会づくりにもつながるものだと考え推進してきました。ハピネスが短期的・個人的なものであることに対し、ウェルビーイングは、より包括的で個人のみならず個人を取り巻く「場」が持続的に良い状態であること、公共的・利他性・持続性のあるものであり、健康経営の大きな目標がウェルビーイングにつながっていくことだろうと思っています。
福岡市 高島市長(ビデオメッセージ)
開催地・福岡市長の高島様からはビデオメッセージをいただきました。メッセージ主旨は以下となります。
人生100年時代を見据えて誰もが心身ともに健康で自分らしく活躍できる持続可能な街を目指すプロジェクト「福岡100」に取り組んでいます。例えば、福岡市の医療・介護・健診データを紐づけ、九州大学と一緒に分析し、その結果、「やせ型」「遅い歩行速度」「咀嚼力が弱いこと」が、早期に要介護となるリスクが高いというエビデンスが得られました。福岡市では対策として、自然と楽しく体を動かしたくなる街づくり・Fitness Cityプロジェクトや、歯科医師会と協力して無料の歯科検診を増やしてオーラルケアのプロジェクトに取り組むことなど行っています。産学官民が力を合わせ、一緒に人生100年時代を有意義に楽しく暮らしていける社会をつくっていきましょう。
株式会社 ミナケア 山本代表取締役社長 講演
【会設立趣旨と活動について】
当会代表理事の山本先生からは、会のあゆみと概要について、お話いただきました。ご講演主旨は以下となります。
当会は、データヘルス(2014年)の始まる前、2013年5月設立し、今年11年目を迎えています。元・日本航空健康保険組合常務理事の幸野様(現・健保連参与)、山本先生、髙谷先生が発起人となり、企業や自治体といった健康保険の母体となる組織や、保険者、行政、医療従事者が一体となり、広い意味での健康経営、予防や健康づくりを改善していきたいという思いが会発足の始まりです。
「健康への投資」については、企業・経営陣を中心とした「健康経営」、産業医・保健師を中心とした「労働衛生」、保険者を中心とした「保健事業」といった、それぞれの立場で進めたいことはありますが、最終的には皆様の健康・ウェルビーイングを推進していくことが、広義の健康経営であり、これを推進、より良くしていくことがこの会の活動目的です。今後、健康を軸とする社会の先導役・牽引役として推進していきたいと考えています。
日本航空株式会社人財本部ウェルネス推進部 大海部長 講演
当会理事・日本航空の大海部長からは、日本航空の健康経営、福岡での取組みについて講演いただきました。ご講演主旨は以下となります。
日本航空は、2010年の経営破綻から、稲盛会長就任が会長として財務健全化と企業理念策定により再生を進めてきました。企業理念の策定にあたっては、「JALフィロソフィの実践」と「部門別採算制度の活用」により、全員が経営に参加して利益を出すことで、再生へとつながっていきました。部門間の相互理解が困難であったところ、「JALフィロソフィ」をつくることにより、グループ全体での共通の価値基準をつくりました。再生の中でできた企業理念の中で「全社員の物心両面の幸福を追求」としたことで、社員が前向きになったことを覚えています。企業理念をつくった際、JAL Wellness宣言をつくり、「全社員の物心両面の幸福」追求のため、社員・会社・健保が一体となって健康づくりに取り組む体制ができました。経営トップ層によるトップダウンと各職場WellnessリーダーによるボトムアップがともにWellness活動を活性化させています。福岡事業所での取組みとしては、「締めのラーメンはほどほどに」など福岡地区の特徴を踏まえた健康増進活動についてミーティングを行い情報共有して進めている。アクサ生命が協力している成城大学経済学部の健康経営をテーマとした特別講義シリーズの中で講義を担当しました。学生からは健康経営への関心の高さがうかがわれ、企業の採用競争率向上、今後の将来に向けたアピール、ブランディング向上につながると改めて思いました。
TOPPAN株式会社 西日本事業本部総務部 福元部長・西日本事業本部総務部 松野下福岡チーム係長 講演
会員団体TOPPANからは開催地・福岡の西日本事業本部 福元部長、松野下係長よりご講演いただきました。ご講演主旨は以下となります。
九州事業部の取組みの一つとして、2022年よりZ世代を受け入れ伸び伸び活躍できる環境を構築することを目的に、Z世代の傾向や、やる気を引き出すコミュニケーションなどについて「新入社員受け入れ職場研修」を実施しています。この他、社内活動や健康増進活動に対して会社がポイントを付与することで社内に活気をもたらすアプリ「たまると」を開発・導入し取組みを進めています。2018年度からは、健診データから健康状態や生活習慣の特性を見える化し、レーダーチャートや健康度・順位を記載した事業所ヘルスケアレポートを経営層や各事業所、ヘルスケア推進委員に配布し、このレポートを基に課題を洗い出し、取組み内容を検討しています。家族の特定健診受診率は、九州事業部では昨年度88.3%で最終的には100%を目標として推進しています。また、産業カウンセラーによるメンタルトレーニングと森林セラピーを組み合わせた講習を1年目社員全員と高ストレス者を対象に行い、高ストレス者の割合が前年度20%から3%まで低下、1・2年目社員の長欠者・退職者は0名となり、これらの取組みがTOPPAN健保ヘルスケアアワード理事長賞を受賞しています。
第一生命保険株式会社 石井人事部ラインマネジャー・健康増進室長 兼 健康保険組合理事長 講演
会員団体・第一生命からは、石井ラインマネジャーに、福岡での取組みも含めてご講演いただいています。ご講演主旨は以下となります。
第一生命の中期経営計画の中では、「健康寿命の延伸」を社会の重要課題の一つとしてとらえ、課題解決に貢献するよう努めています。顧客の健康増進、地域・社会の健康増進に寄与、そして、それを担う社員の健康増進が重要と考えています。女性社員が多いことから、婦人科がん検診に力を入れており、特に乳がん検診受診率については、マンモバスを全国320ヶ所に走らせ約70%の受診率としています。ヘルスリテラシー向上の取組みとしては、第一生命特有で、社員が顧客とともに参加できる機会も提供するなど、推進に努めています。事業所と地域との健康経営のコラボレーションとして、協会けんぽと第一生命全国支社で連携協定しています。福岡県でも協会けんぽ福岡支部と連携し、県下企業の健康経営取組み・県民の健康増進を一緒に応援しています。第一生命・生涯設計デザイナーが案内し、福岡総合支社では296社の「ふくおか健康づくり団体・事業所宣言」につなげています。また、第一生命特有の取組みとして、「仕事と治療の両立支援」に力を入れており、仕事を続けながら安心して治療を行えるよう、柔軟な勤務制度、両立できる休職制度、復職支援制度や団体保険等による補助など、体制作り・保障整備を積極的に展開しています。
日本健康会議 渡辺事務局長 講演
日本健康会議事務局長の渡辺様からは、日本健康会議の目指すところについてご講演いただいています。ご講演主旨は以下となります。
日本経済新聞社政治部 厚生省・医療担当となったのが1973年で、以来、50年、医療行政を担当しています。2013年より、医療費適正化を目的として、民間主導でできることはないかと厚労省、財務省、医師会と相談を進め、2015年に「日本健康会議」を設立することとなりました。日本健康会議では、日本商工会議所・日本医師会を共同代表として話し合いながら企業・地域での健康づくりを進め、健康寿命の延伸を目指しています。経産省が選定する健康経営銘柄から、更に健康経営推進を広げるべく、日本健康会議では健康経営優良法人、大規模部門・中小規模部門を立ち上げました。健康経営優良法人設立の際には、当時・日本医師会副会長の今村先生より、医療法人や社会福祉法人等も含めることができるよう「法人」を対象とするものとしました。健康経営、健康づくりに取り組む法人に対して、就職希望者が増え、また、ESG投資をしたい投資家が増える時代となっています。
産業医科大学 産業生態科学研究所 産業保健経営学研究室 永田准教授 講演
産業医大の永田准教授からは、「健康経営にかかわる最近の研究や話題 そして今後あるべき姿について ~コラボヘルス、SDGs~」をテーマにご講演いただきました。ご講演主旨は以下となります。
「働く人のSustainability」は「企業のSustainability」と密接にかかわり、それらを維持するには、社会の安定・発展や健康な国民・活力ある社会といった「社会のSustainability」も大切になってくるという考えのもと、研究に取り組んでいます。「健康と関連した生産性指標」として、プレゼンティーイズムに関する研究内容についてご紹介いただきました。健康問題にかかる費用の内、医療費・薬剤費は25%であるのに対し、プレゼンティーイズムにかかる費用は65%を占めています。プレゼンティーイズムに影響を与える要因として「メンタルヘルス疾患」と「筋骨格系(肩こり・腰痛)」の症状による損失が大きいことが分かり対策が重要です。プレゼンティーイズムには精神的健康が深くかかわり、精神的健康には仕事の要因が大きく影響します。仕事の要因としては、仕事の形態(在宅勤務など)、仕事の性質(満足度など)のみならず、組織のサポート(自分が会社から支援を受けていると認識すること)や上司のサポート(上司による健康のケアなど)が重要です。POS(Perceived Organizational Support 知覚された組織的支援)が高いと、「組織へのコミットメント」や「仕事の成果」が上がり、ストレスや離職意思が下がります。POSの先行要因としては、公正性、上司のサポート、報酬・労働条件があり、特に直属の上司の支援により従業員のPOSが高まり、ワーク・エンゲイジメントやパフォーマンス向上、感情的疲労改善、健康増進プログラム参加率増加につながります。人的資本の開示については欧米のものが優れており、経年比較、要因分析、評価とアクションといったストーリーを持った開示内容がこれから日本でも求められていきます。
健康経営・データヘルスに熱心に取り組む、福岡県企業・健保42名、講演者関係7名、会員団体33名、合計87名にご参加いただき、盛況のうちに閉会となりました。