第28回「健康と経営を考える会」定例会開催レポート

お知らせ 2022年11月04日 配信

「健康と経営を考える会」第28回定例会(会員のみ参加)を、会場×オンラインで9月13日(火)に開催いたしました。

 

第一部 歯科健(検)診・予防歯科事業について

東京医科歯科大学 相田教授 講演内容

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 健康推進歯学分野の相田教授からは、国民皆歯科健診の具体的方法は決まっていないが、実施可能性のある方法と、学術的にどうあるべきかという内容についてご講演いただきました。

■経営を考える上での歯科疾患
歯科疾患は、全身の健康やコミュニケーション低下に大きく影響を与えること、働く世代の医療費は疾患別でトップであることをお話いただきました。

■現行の歯科健診から国民皆歯科健診の課題を考える
日本人は、自治体での歯科健診受診率が5%未満と低いが、個人での歯科受診割合が53%と他国より高く、国民皆歯科健診では個人での受診も含め「過去1~2年歯科受診していない人」を減らす方策としては、との考えを示されました。

■簡単にできる唾液検査、細菌検査などのスクリーニング検査から国民皆歯科健診を考える
唾液・歯周病検査は精度の限界があること、むし歯や破折等、その他の治療の必要性もあるが唾液検査では検出できない問題を示されました。また、歯科疾患は5~8割が「要歯科受診」となるため、「スクリーニング+歯科受診」よりも「全員歯科受診勧奨」の方が総費用は安くなる可能性があることを示されました。

■ハイリスク者を特定する手法自体の問題
あらゆる疾病において、一部のハイリスク者よりも、多くのローリスク者からの疾病発生数が多く、歯科分野においては歯石クリーニングなど予防歯科の重要性についてお話いただきました。

■歯科対策各論
砂糖対策では砂糖の含まれる飲料は多く無糖飲料の勧奨、加熱式たばこを含む喫煙により歯周病リスクがあるため喫煙対策の重要性についてお話いただきました。

■健康経営に歯科取組みを導入した事例
IBMでは、歯科医師による健診と衛生士による保健指導、歯周病予防道具販売などのプログラムにより取組み開始から7年で医療費抑制できた事例をご紹介いただきました。また、歯科スタッフのいない企業でも近隣歯科医院で委託することで実施できるというご提案もいただきました。
歯の問題は、年間1人あたり3.9時間損失するなど生産性低下を引き起こすことから、健康経営として歯科受診を行ってもよいのではないか、「健康経営に歯科受診を入れることで、産業保健の場での国民皆歯科健診が実現できる」とお話しされていました。

歯科健(検)診・予防歯科事業の事例として、健保連神奈川連合会、トッパングループ健康保険組合、会員2団体にご講演いただきました。

 

健保連神奈川連合会 堤事務局長 講演内容

健保連神奈川連合会からは、堤事務局長より歯科検診、予防歯科事例発表をいただきました。

■歯科健診事業
神奈川県歯科医師会と健保連神奈川連合会が契約する約2,000の歯科医療機関で、自己負担無料・各健保負担で口腔検査後、ブラッシングなど口腔衛生指導を行う取組みを実施しています。国より補助のあった平成9~11年は年間2,000人ほど受診していたが、国の補助が無くなったことにより年間受診数は1,000人ほどに半減しました。2年程前より事業説明・参加促進を図り、今年度参加健保が増えています。他県在住加入者受診を課題と考えているとのことでした。

■歯肉溝バイオマーカー検査
共同保健事業の一つで、「かながわ健康企業宣言事業」にエントリーしている企業を対象とした健康経営サポート事業として行っています。
歯肉溝(歯周ポケット)から採取される滲出液から炎症や出血マーカーを測定し、歯周病の進行度や対応策について受診者に結果報告書を送付しています。今後の課題として、要治療者の受診確認・受診勧奨を検討しているとのことでした。

 

東京医科歯科大学 岩城准教授 講演内容
(トッパングループ健康保険組合・凸版印刷相模原事業所を中心とした事例取組み)

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 医歯理工保健学専攻 口腔デジタルプロセス学分野 岩城准教授からは、トッパングループ健康保険組合ヘルスケアプロジェクトチームとしてかかわっているトッパングループ健康保険組合の歯科検診、予防活動事例発表をいただきました。
トッパングループ健康保険組合では、事業所会議室や健診会場で歯科検診+口腔衛生指導を、節目もしくは希望者を基本として実施しています。
トッパングループ健康保険組合の歯科状況は以下のようになります。

  • どの事業所も6~8割、歯周病があり、年齢が高くなると重症化傾向(全国平均と同様)。
  • 全身疾患との関連は、糖尿病・心臓病・高血圧に罹患している人の6~10割に歯周病があり、内科・歯科両面からの治療やフォローが必要。
  • 歯科検診で「要治療・要精密検査」は9割で、この内受診した人は3割しかいない。
  • 歯科検診・口腔衛生指導により、歯科受診行動や歯間ブラシ・フロス使用の改善、歯石の付着状況

など口腔衛生状況の改善が見られました。
課題として、1)多くの社員を広く長く公平にサポートできるシステムづくり 2)受診者の関心をひく通知方法 3)効果的な歯科受診勧奨方法 4)歯科医院への紹介システム を考えているとのことでした。

 

 第二部 ワクチン・治療薬 最新情報

ファイザー株式会社 取締役執行役員 藤本ワクチン部門長 講演内容

内科医でもあるファイザー株式会社 取締役執行役員 藤本ワクチン部門長より「ワクチン・治療薬 最新情報」をテーマにご講演いただきました。

■感染症とワクチン
接種のメリットと副反応、国の補助がある定期接種(A類:まん延防止に比重・麻疹、ポリオ等 B類:個人の重症化防止に比重・高齢者に接種するインフルエンザ、肺炎球菌等)と補助の無い任意接種(おたふくかぜ、A型肝炎など)についてご説明いただきました。A類、B類、任意接種で、予防接種にかかわる健康被害に対する給付額が大きく異なるとのことでした。また、日本では任意接種のものから定期接種に至るまで時間を要する問題についてもお話しいただきました。
新型コロナワクチンは、臨時接種で、これは社会経済機能に与える影響が大きく、緊急性、病原性が高いものが対象となります。

■新型コロナウイルス感染症と、そのワクチン
新型コロナウイルスワクチンには組み換えタンパクワクチンやウイルスベクターワクチンなども開発されましたが、日本をはじめ先進諸国で多く利用されたワクチンは開発スピードが速く大量生産が可能なmRNAワクチンであるとのことでした。mRNAワクチンは、新規変異株が出てきたときにmRNA配列を変えることで速く変異株対応ができるという特徴があるとのことでした。オミクロン株に対するワクチン開発も100日以内であったとのことでした。
今回の新型コロナ感染症によるパンデミックで、「感染症の脅威とワクチンの役割」再認識、「感染症予防と経営」の関係を新たにするきっかけとなりました。また、職域接種への取組みにより、経営者にとっては社員の健康に対する責任を改めて考えること、社員にとっても企業に対する帰属意識が芽生えるきっかけとなったのではないかとお話しされました。

■健康経営と感染症予防への取組み
「経営に期待する感染症予防の取組み」として、感染症に関する従業員教育と情報提供、ワクチン接種支援、ワクチン接種歴を含むヘルスケア・データ管理の重要性についてお話しされました。ファイザー社内では、VPD(Vaccine Preventable Disease:ワクチンで予防できる疾患)についての教育・情報提供、ワクチン接種支援(インフルエンザ・子宮頸がん・肺炎球菌・風疹・帯状疱疹)、予防接種記録・情報提供アプリ ヘルスアミュレットを導入されているとのことでした。

■肺炎予防の重要性
肺炎は死因として3番目に多く、認知機能障害など健康寿命低下を引き起こし、近年増加率が高いため、ワクチン接種による予防が重要とのお話をいただきました。肺炎球菌ワクチンは、10年ほど前から小児を対象に接種するようになったので若い世代は減っていますが、高齢者は免疫機能が低下しているため接種の重要性についてお話しされました。

 

第三部 健康経営度調査 最新情報

株式会社ミナケア 山本代表取締役社長 講演内容

健康投資WG委員でもある株式会社ミナケア 山本代表取締役社長より「健康経営度調査 最新情報」をテーマにご講演いただきました。

■健康経営に関する政策動向
令和4年3月の参議院予算委員会では岸田総理から改めて健康投資は重要で世界でも活躍できる分野だとして「新しい資本主義」での健康の意義が強調され、5月「人材版伊藤レポート2.0」では、人的資本投資として健康経営の実践により健康を経営課題と考えることで業績やエンゲージメント向上につながるとの言及がありました。
労働市場へのアプローチとして、ハローワークでの求人の際に健康経営優良法人情報も利用できるようになりました。
健康経営ポータルサイト「ACTION!健康経営」開設など、健康経営推進の力は、ますます強くなっているとお話しいただきました。

■令和4年度 健康経営度調査の改訂ポイント
以下3点について、お話しいただきました。

① 情報開示促進
更なる活用に向け、国際的な非財務情報開示・評価の動向を踏まえ、経営層のコミットメントや施策のアウトプットに関する定量的項目追加(「経営会議での議題化内容・回数」「健康経営施策への従業員の参加率」)。

② 業務パフォーマンスの評価・分析
業務パフォーマンス指標を活用した健康経営の効果見える化を促進するため、アブセンティーズム、プレゼンティーイムズ、ワークエンゲージメントの経年変化や測定方法に関する開示状況調査。

③ データ利活用の促進
40歳未満の事業主健診データの健保への提供、個人がPHRをマイナポータル等で閲覧可能となる環境整備や周知にかかわる取組みについて状況調査。
ヘルスリテラシー向上の取組みとして、健診情報などを電子記録として閲覧できる環境整備について調査。
参考情報として、事業主単位での特定健診・特定保健指導実施率を調査に追加する案もWGでは検討されたこともお話しいただきました。

■令和4年度健康経営度調査の概要と留意点
各設問において、全般的に数値は割合ではなく%表示、「取引先の健康経営支援」、「健康経営推進担当者の役割」等、具体性が増しているとのご説明をいただきました。
「従業員同士が感謝を伝え合うことに対してインセンティブ付与を行いコミュニケーション促進」、「休暇取得促進」、「運動習慣定着」、「メンタルヘルス予防」、「高齢従業員の健康課題取組み」など対応する範囲がより広くなっているともお話しいただきました。

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健康経営・データヘルスに熱心に取り組む会員団体の方、会場21名×オンライン31名にご参加いただき、盛況のうちに閉会となりました。