第30回「健康と経営を考える会」定例会開催レポート
「健康と経営を考える会」第30回定例会(会員のみ参加)を、会場(同友会ビル会議室 文京区)× オンラインで3月14日(火)に開催いたしました。
今回は、①三菱電機健康保険組合・若林常務より「会員企業・健保の取組みや課題について」、②一般財団法人京都工場保健会・森口理事より「産業医の視点から産業医のあり方・健保との連携等について」、③厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課 産業保健支援室・中村室長より「産業保健制度全体の今後のあり方や産業保健が届いていない中小企業対策について」をテーマとし開催しました。
三菱電機健康保険組合 若林常務理事 講演内容
< グループにおける健康経営推進における課題 >
三菱電機は、事業所数が130と非常に多い状況であるが、20年以上、企業・健保・労組3者がコラボヘルスにより社員の健康推進活動を行っている。うまく進まないことも多くあったことから、コロナ禍、健康推進全体のコンセプトを見直す議論を行い課題共有をはかった。
■これまでのコラボヘルス振り返り
「健康日本21(2000年)」に共鳴して、2002年より企業・労組・健保協同によるグループ全体の健康増進の取組み「三菱電機グループヘルスプラン21 (MHP21)」を、以下の目的を掲げて開始した。
- 従業員及びその家族の心身の健康保持増進
- 労働生産性の維持・向上
- 医療費の抑制・適正化
■新たな中期計画の策定に向けて
これまでの取組みの中で「1日3回以上歯の手入れ」など改善した項目はあったが、若年層の健康など見直しの必要性を感じ、2021年度、新たな中期計画策定に向けて企業・健保・労組で検討チームを立ち上げ、以下の視点で時期活動について検討した。
- Point1「日々の生活に重点を置いた活動への見直し」
- Point2「三菱電機グループにおける健康経営の確立」
- Point3「PDCAサイクルを回すための結果の見える化」
保健指導スタッフの問題意識として、若年層・20~30歳代について、BMIがこの時期に悪化し始めることや、それにもかかわらず健康教室に興味を示さないことがあげられ、若年層の意見を聞くこととした。若年層からは「健康には関心があるけど会社から言われたくない」等の意見、「格好良くなりたい」「美しく生きたい」等、『今をどう生きるか』ということに関心があることが分かった。
そこで、これまでの指導的目線での取り組み「生産性」「医療費抑制」「健康寿命」を改め、「毎日を」「いきいきと」「楽しく」「ワクワク」といった参加者目線で取組みを行うこととした。
■新たな中期計画の概要
MHP「いきいきワクワクACTION」を新たな活動名称、『一人ひとりが「いきいきワクワク」と日々過ごしていくための健康づくり活動推進を活動理念とし、評価指標を「快食」「快眠」「快便」とした。グループ全体の経営施策の一つにMHP活動を含めた健康経営を位置づけ、経営トップ層主導の取組みとして推進を図ることとした。
■新しい活動について
新たな活動のコンセプトを伝えるコンテンツでは、若年層とのコミュニケーションをはかりやすくするため、コミュニケーションアイコンに「秘密結社鷹の爪」を起用し、健康行動の提案や健康調査結果レポートを配信したキャラクターを用いることでライトに伝えやすく、読者アンケートも好評であった。
「ウォーキングキャンペーン」のような以前の画一的なメニューから自分の健康課題に則したメニューに移行、健康管理アプリ導入等により特に若年層の参加率が増えた。
■課題について
現在、以下の課題を感じており、対策を検討中である。
- 健康経営を経営方針の主軸に位置づける体制の確立
(1)経営トップ層・ミドル層の意識改革:もう一歩後押しとなるものはないか。
(2)事業所ごとの主体的な推進体制:特に小規模事業所の体制
(3)取組みの難しい関係会社への支援体制 - 発信力の強化:様々な社内情報の中で、健康推進情報をもっと見てもらいたい。
- ニーズや特性に応じた情報提供と行動提案:ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチのバランスと両立
- 主観的目標と客観指標の関連付け:快食・快眠・快便の向上が健診結果に反映することの検証
森口 一般財団法人京都工場保健会理事・産業医科大学産業衛生教授 講演内容
< 健康経営でしくじらないために ―産業医の視点から― >
■よい産業医の見分け方
よい産業医の見分け方として、以下をあげていただきました。
- 不調の労働者の周囲にも目を配る。
- 事業所に出向き、五感を働かせて業務する。
- 健康管理のみならず作業環境や作業も自分の専門領域だと認識している。
- メンタルヘルス対応は産業医の通常業務だと認識している。
- 安全衛生委員会で発言する。
- 質問に対して誠実に早急に回答する。
- 法的リスクを早めに回避する。
また、産業医雇用前によい産業医の見分け方として、産業衛生学会専門医や社会医学系専門医の資格を持っていることをあげていただきました。
■健康経営の注意点
従来の産業保健活動に健康経営の視点を加えていくことは有用と思われるが、安全配慮義務の履行や法令順守が疎かにならないよう注意を要する(産業衛生学会政策法制度委員会)。
警戒心の強い従業員は、ウェルネスプログラムは宣伝目的だと信じていたり、医療費削減が目的だと警戒したりすることで、参加が少なくなるかもしれない(Eisenberger教授)ということから、知覚された組織的支援(POS)という考え方が重要となる。POSとは、従業員の貢献への組織の評価や従業員の健康への組織の配慮に関して従業員が抱く信念(感覚)のことで、この感覚が高まると従業員の組織への好意や貢献への意欲が高まる。POSを高めるには「組織の自由裁量による取組みだと従業員にみなされること」「管理職への支援があること」などで、POSが高まると「組織へのコミットメント」「仕事に関連した感情(仕事満足度など)」「仕事への参画意識」などが向上する。
■健康経営の組織的要因の醸成
組織的要因の醸成として、以下をご紹介いただいた。
- 経営トップが従業員の健康にコミットし、リーダーシップを発揮して従業員にメッセージを伝える。
- 管理職が経営トップ方針の代弁者となり、従業員のウェルビーイング向上を支援する。
- 各部門で自発的に健康増進をリードする従業員を育成する。
- 産業保健専門職が管理職の行動を支援する。
厚生労働省 労働基準局安全衛生部労働衛生課 産業保健支援室
中村室長 講演内容
< 産業保健のあり方の検討について >
■産業保健の現状と課題
①『課題の多様化と深刻化』
「高齢化による影響」として、定期健診での有所見率、治療を必要とする疾患を抱える労働者の割合、転倒災害の増加などがあげられ最も影響が大きい。
「メンタルヘルスの現状」として、精神障害に関する労災認定増加、規模の小さい事業場ほどストレスチェック未実施、集団分析を実施しても職場環境改善未実施事業所が多いことなどを課題となっている。
「女性の就業状況の変化とその影響」として、女性の健康課題により職場で困った経験のある人や、あきらめなくてはならないと感じることが多い現状がある。
②『中小企業の状況』
「産業保健体制が不十分」事業場の96%を占める中小企業では産業医・衛生管理者選任率や、看護職活用率が低率であること、衛生管理者はほとんどが他の業務と兼任で経験年数が少ない。また、有所見者に対する保健指導実施率は、事業所の規模が小さくなるほど低い。
③『経営環境の変化』
- 就活生は「従業員の健康や働き方に配慮」している企業に就職したいと考えている
- 従業員の健康関連コストでプレゼンティーイズムが多くを占める
- 健康経営認定制度にエントリーしている法人数が1万5千社以上に拡大等、経営環境の変化の中で認知度も向上している。
■産業保健のあり方検討会の主な検討課題
上記、現状と課題を踏まえ、制度的に産業保健体制に差を設けていることを克服するため、検討会では以下を検討課題としている。
- 産業医の選任義務がない50人未満の小規模事業場にも産業医等による必要な産業保健サービスを届けるための仕組みのあり方
産業保健サービスと健康保険組合の保健事業や、健診機関の行う健診とのリンクなど今後検討する。 - 産業保健スタッフの資質向上と産業保健サービスの質の確保
- 中小企業の取組みが遅れている対策の進め方
- 中小企業に対する支援のあり方
地域の経済団体や同業者組合等との連携による集団的な産業保健体制や支援のあり方など検討する。また、地方公共団体、保険者、企業グループ、サプライチェーンを通じた支援の仕組みができないか議論している。 - 地域医療・保険との連携のあり方
開業医や病院と職域との連携を検討する。 - 産業保健活動に消極的な中小企業経営者の意識改革
会社の経営にも好影響を及ぼす健康経営の取組みをきっかけに、経営者の意識改革をできないか検討している。
健康経営・データヘルスに熱心に取り組む会員団体の方、会場27名×オンライン44名にご参加いただき、盛況のうちに閉会となりました。