第36回「健康と経営を考える会」定例会開催レポート

お知らせ 2026年02月03日 配信

「健康と経営を考える会」第36回定例会(会員のみ参加)を、会場(同友会ビル会議室 文京区)× オンラインで12月9日(火)に開催いたしました。

今回は、「日本におけるがんの現状や国の方針」について厚生労働省 鶴田 がん・疾病対策課長、「PSA検診」について黒沢病院 伊藤病院長、会員団体のがん対策取組み事例として、デパート健康保険組合保の冨山参与と渡辺課長から「総合健保が取り組むがん検診結果判定の一元化と受診勧奨」、日産自動車健康保険組合の野添事業部長・橋本様・斉藤様から「日産健保 がん精検取り組み事例紹介」について、ご講演いただきました。

厚生労働省 健康・生活衛生局 鶴田 がん・疾病対策課長 講演

日本におけるがんの現状や国の方針

1. 日本のがん対策の歩みと現状

日本のがん対策の歴史として、1962年 国立がんセンター設立、1981年 悪性腫瘍が死亡原因第1位、2006年がん対策推進基本法成立が重要な転機として示された。同法に基づき策定される「がん対策推進基本計画」は、患者・家族の意見を制度的に反映する点に特徴があり、現在は第4期計画が進行中である。

がん死亡者数は高齢化の影響で増加傾向にあるが、年齢調整死亡率で見ると減少しており、特に胃がん・肝がんなどで顕著な改善が見られる。年間のがん罹患数は約99万人、死亡数は約38万人で、生涯罹患リスクは「2人に1人」とされる。罹患数は大腸がん、肺がん、胃がんが多く、死亡数では肺がん、大腸がん、膵臓がんが上位を占めている。

2. がん予防政策と検診制度

第4期がん対策推進基本計画では「がん予防」「がん医療」「がんとの共生」の3本柱が掲げられ、予防は一次予防(生活習慣改善、感染症対策)と二次予防(がん検診)に分けて整理されている。特にピロリ菌、HPV、肝炎ウイルスなど感染症対策の重要性が強調された。

がん検診については、死亡率減少効果が科学的に証明されている胃・肺・大腸・乳・子宮頸がん検診を対策型検診として推奨し、受診率60%、精密検査受診率90%を目標としている。受診率は着実に向上しているものの、目標達成には至っておらず、特に職域検診情報を自治体が把握できない点が課題とされる。これに対し、①「がん予防重点健康教育及びがん健診実施のための指針」改正により職域検診情報を把握することで受診率向上の取組みや精度管理を行うこと、②デジタル化(PMH(Public Medical Hub)、医療DX)を通じて、受診状況の一元管理と未受診者への効果的介入を目指す方針が示されている。

また、新たな検診技術導入のプロセスも整理され、研究→有効性評価→モデル事業→指針改正という段階的導入が明確化された。肺がん検診では、重喫煙者に対する低線量CTが死亡率減少効果ありと評価され、今後の制度化が検討されている。

3.2040年を見据えたがん医療提供体制

2040年には人口減少と超高齢化が進行し、がん患者は微増する一方で85歳以上の比率が高まると予測される。治療需要では手術が減少し、放射線療法・薬物療法が増加する見込みであるが、外科医、特に消化器外科医の大幅な減少が深刻な課題とされる。

これを踏まえ、治療成績や人材確保の観点から、医療の「均てん化(全国どこでも、誰でも、同じ質の医療やサービスを受けられるようにすること)」と「集約化(医療資源(機能・設備・人員)を特定の病院に集中させ、医療の質を高め、効率的な運営を目指すこと)」を適切に組み合わせる必要性が示された。都道府県レベルでのデータ活用と合意形成を通じ、持続可能ながん医療体制の構築を目指す方針がまとめられている。

行政、医師、企業、アカデミアなど様々な立場の方が、患者さんのためにそれぞれ何ができるか考えることが最も大切で、同じベクトルを向きながら仕事ができると素敵だと思っていると締めくくった。

医療法人 社団美心会 黒沢病院 伊藤院長 講演

PSA検診について

伊藤先生の講演では、前立腺がんの罹患数が日本でも急増し、生涯罹患リスクは9人に1人に達していることが示された。PSA検診・未実施時代には転移がんで発見される割合が非常に高かった。

欧米ではPSA検診普及により転移がん比率と死亡率が大幅に低下している。2012年には、米国予防医学作業部会(USPSTF)による「PSA検診非推奨」勧告により、検診率低下と進行がん増加という負の影響が生じた。これには、質の低いRCT研究(PLCO試験)でPSA検診は前立腺がん死亡率を減らさないと報告、メディアにより広まったことが影響を及ぼしたが、後にその研究の欠陥が明らかになっている。欧州のERSPC試験では死亡率低下効果が明確に示され、現在、欧米の泌尿器科学会ではリスクに応じたPSA検診を積極的に推奨している。

日本においてもPSA検診を住民検診として導入するだけでなく、職域においても検診開始適齢期・50歳からの検診実施は死亡率低下があると臨床医の立場から検診の重要性を強調した。

デパート健康保険組合保健事業部 冨山参与 ・ 渡辺 健康推進課課長 講演

総合健保が取り組むがん検診結果判定の一元化と受診勧奨

デパート健康保険組合の概要と課題

デパート健保は、小売業を中心とした中小規模事業所が多数加入する総合型健保で、被保険者は約14万人、加入者全体では約18万人に及ぶ。女性比率が高く、40歳以上の女性が約7割を占め、平均年齢も高いことから、がんや生活習慣病のリスクが高い集団構成となっている。

一方で、短時間労働者が多く、標準報酬月額は低水準であるため、受診控えが起きやすく、結果として一人当たり医療費が高額化しやすいという構造的問題を抱えている。保健事業費も限られており、健保連平均と比べると、一人当たりの予算・決算額はいずれも大きく下回っている。

重症化予防へのシフトとコラボヘルス

デパート健保では、医療費適正化にとどまらず「削減」を視野に入れ、事業所と連携したコラボヘルスを軸に、重症化予防を推進している。WEB版の保険事業ガイドブックを作成し、健保事業だけでなく、産業保健や健康経営、安全衛生委員会の運営など、中小企業でも活用できる実務的な情報提供を行っている。重症化予防施策は段階的に整備され、健診当日からの受診勧奨、結果返却後の再勧奨など、タイムラグを極力短縮する仕組みを構築したことが特徴である。

健診データとがん検診結果の一元化

令和6年度から健診体制を大幅に見直し、健診代行機関を集約。健診結果は健康管理クラウドに取り込み、フォーマットや判定基準を変換・統一することで一元管理を実現した。これにより、従来は健診機関ごとに異なっていたがん検診判定を、健保として共通基準で把握できるようになった。

がん検診後の受診勧奨の流れ

がん検診後、一定期間(概ね3か月)を経過しても医療機関受診が確認できない者を抽出し、レセプトデータと突合のうえ、対象者に受診勧奨通知を発送する。

今後は、通知時期のさらなる前倒しや、再勧奨の仕組みづくり、アウトカム指標による効果検証が課題として挙げられている。

日産自動車健康保険組合 野添 事業部長・橋本 事業部健診担当・斉藤 健康推進室リーダー 講演

日産健保 がん精検取り組み事例紹介

日産自動車健康保険組合の特徴

日産健保は、約6万8千人の被保険者を抱え、健保内に産業医・医療職を多数配置している点が大きな特徴である。健診から判定、精密検査フォローまでを内製で一貫実施できる体制を有し、中期計画(2024~2029年度)の中にがん対策を明確に位置づけている。

日産健保におけるがん検診・精密検査

胃がん・大腸がん・肺がん検診は定期健診内で実施し、費用負担なく受診可能としている。胃がんについてはABC分類を活用し、リスクに応じた検査間隔を設定するなど、科学的根拠に基づいた運用が行われている。精密検査対象者については、社内診療所からの呼び出しや紹介状作成、予約支援まで実施し、未受診者には会社と連携したフォローを行う。ただし、個人情報保護の観点から、会社と共有する情報は「未受診者であること」に限定し、具体的な病名等は健保内にとどめている。

グループ会社・女性向け施策

日産健保では、定期健診と同時実施するがん検診への補助金制度、職場巡回による乳がん・子宮頸がん検診、オプション検査制度など、多様な受診機会を提供している。特に女性が勤務時間内に受診できる環境整備に力を入れており、受診者数は年々増加傾向にある。


健康経営・データヘルスに熱心に取り組む会員団体の方54名にご参加いただき、盛況のうちに閉会となりました。