「健康と経営を考える会 サマーセミナー2025」開催レポート
健康と経営を考える会事務局
「健康と経営を考える会」サマーセミナー2025を、ぎふしんフォーラム会議室(岐阜市美江寺町2-6)にて、9月3日(水)に開催いたしました。
今回サマーセミナーは、健康と経営を考える会会員と、開催地・岐阜県、東海地域の健康経営取り組み企業と情報共有、意見交換、交流を深めることを目的としております。岐阜県は元ヘルスケア産業課長の江崎様が今年知事に就任されており、当会のシンポジウム、定例会、長野県開催サマーセミナー等、多くご登壇いただき当会と関係の深いこともあり、岐阜県にてサマーセミナー開催しました。
開催にあたりましては、ヘルスケア産業課・岐阜県庁に多大なご助力をいただいております。
岐阜県 江崎知事 講演
『健康経営の展開 -「働き方改革」から「働いてもらい方改革」へ』

江崎知事の講演は、経産省ヘルスケア産業課長として健康経営の制度設計を担った経験と、現在の知事としての実践を交えて語られた。
岐阜県の取り組みとして『働いてもらい方改革』についてご紹介いただきました。『働いてもらい方改革』とは、「従業員が働きやすい業務や時間帯に働いてもらうことで、最も生産性が高くなる」ことに着目し、柔軟な雇用方法を整備し、労働効率を向上させるなど、従業員目線に立った企業側の意識改革を狙いとした取組みです。
岐阜市のスクリーン印刷会社・(株)坂口捺染の「出勤日、出社・退社時間は従業員が決める」ユニークな短時間雇用、多治見市の製造業・上村陶磁器(株)の「作業スケジュールに、従業員に裁量を持たせることで業務効率が改善」した取り組みなど、ご紹介いただきました。岐阜県では、こうした『働いてもらい方改革』を推進しています。
株式会社 ミナケア 山本取締役 講演
『健康と経営を考える会のあゆみ』

当会代表理事の山本先生からは、会のあゆみと概要について、ご講演いただいた。
健康と経営を考える会は、データヘルス、健康経営の本格推進が始まろうとしている頃、代表理事2名と当時の日本航空健保・幸野常務理事の3名で趣旨を話し合い2013年5月設立した。
会の目指す像は、企業・保険者・行政・医療従事者・自治体・労組等が一体となり、人々の健康維持・増進を推進する新たな仕組みを検討・追及することで、健康経営や保健事業の推進を実現していくことである。立場によって見え方は異なるが健康経営・保健事業推進の実現という一致した目的があることから、同じテーブルについて課題を検討すると同時に医師や行政などの専門家を交えた人的交流を図りながら解決策の検討を深めていくことを、この会の趣旨としている。
株式会社名古屋銀行 人材開発部 兼 健康経営推進室 鈴木 常務執行役員 講演
『名古屋銀行における健康経営』

東海地区の健康経営銘柄企業・名古屋銀行の鈴木部長から、 取組みについてご講演いただいた。
名古屋銀行では、2022年に人材開発部長が健康経営推進室を新設。健康経営を経営戦略に組み込み、「働きがい改革」を軸に企業風土改革を進めた。
健康経営を経営計画に正反映させるよう1年超の提案を繰り返し提案、ホワイト500・健康経営銘柄などの実績も得た。
部署をつくる前から様々取り組んでいたがバラバラで、部署立ち上げにより戦略的に進めていけるようになった。
様々な取組みの中で『こころの健康づくり』としては、「保健師による全職場訪問面談」により、保健師が全従業員と面談し、メンタル不調者の早期対応をしている。「心理士による若手従業員面談」では、心理士が1~5年目の従業員と全員面談し、ストレス緩和やセルフケアのアドバイスを行っている。
明るく積極的な組織をつくるためにプラスとなることはどんどん取り組むこと、データを取れるものは定量的に判断することを基本に施策を進めている。
TOPPAN株式会社中部事業部総務部・名古屋T 松井チームリーダー・TOPPANグループ健康保険組合名古屋診療所 増田保健師 講演
『TOPPAN (株)中部事業部のコラボヘルスについて』

TOPPANからは、中部事業部総務部・名古屋T 松井チームリーダーと健康保険組合名古屋診療所 増田保健師よりご講演いただいた。
健康保険組合の増田様からは、コラボヘルスの難しさと奮闘の日々についてお話いただいた。保健師1年目には、企業担当者とのコラボヘルスを重要と考え、健康セミナー企画を協力して行ったが参加者は少ない状況であった。2年目には、セミナーを実施しても参加者少ないのであれば工場各課に出向き出前形式で10分の健康の話を行うことにしたところ、80%の人に話を聞いていただけた。そうした取り組みを続け、相談件数増、休職者・高ストレス者減につながっている。
従業員、企業・健保で足並みをそろえ、小さな一歩を積み重ねて健康経営というゴールを見据えて前進していきたいと考えている。
三菱電機株式会社総務部安全衛生課 名古屋製作所 健康増進センター 永谷保健師 講演
『三菱電機株式会社健康経営 名古屋地区 健康増進/労災・健康障害防止の取り組み』

三菱電機からは、名古屋製作所健康増進センターの保健師、永谷様より、名古屋地区独自の取り組みを中心にご講演いただいた。
三菱電機は、1970年代から会社、労組、健保協働でコラボヘルス、健康増進活動に取り組み、現在は「MHPいきいきワクワクACTIONプラン」として、従業員及び家族一人ひとりが健康課題を自分事として捉え主体性を持って取り組むことをコンセプトとし、快食・快眠・快便を目標とした活動を展開している。
名古屋地区独自の施策は、AI等のデジタル技術を活用した安全衛生活動のDX推進に取り組んでいる。転倒リスク評価はAIによる歩行特徴分析、メンタルヘルス対策は疲労ストレス計により高疲労ストレス者を見つけてカウンセリング実施、腰痛対策として作業負荷自動計測システムによる作業時の姿勢の評価などを行っている。これらは健診と同時に行い、従業員に楽しんでもらいながら健康に関心を持ってもらう機会としている。
デパート健康保険組合 冨山参与・渡辺課長・笹澤様 講演
『総合健保と加入する中小企業が一体となって健康管理に取り組むための環境構築について』・『民間PHRの導入・活用の好事例』

デパート健康保険組合の冨山様・渡辺様・笹澤様からは、総合健保が加入する中小企業と一体となって健康管理に取り組むための環境構築についてご講演いただいた。
冨山様からは『健保と企業がコラボヘルスを進めるポイント』①キーパーソンとの連携、②データの見える化、③持続可能な仕組みづくりと組織づくりについてお話いただいた。中小企業では、健診データは紙の山で整理されていない、産業保健スタッフ不在、人事・総務は多忙という状況で、何から手を付けていいかわからないというところが多い。健康経営へ取り組むためのコラボヘルスとして「健診データ一元化」により企業と健保で同じデータを見る、「民間PHR活用」により健康経営をさらに進めている。
渡辺様からは、『総合健保と加入する中小企業が一体となって健康管理に取り組むための環境構築について』お話いただいた。多くの事業所には健康管理システムが導入できておらず、また、特定健診・定期健診・がん検診等を一括管理できるものは無かった。そこで、健保が医療機関や事業所より健診データを収集し、健保の健康管理システムに取り込み、そのシステムを事業所に提供、産業保健体制サポートを行った。実際のコラボヘルスでは、産業医や衛生委員会に予めコンセンサスを得たうえで、事業所・健保が同じ健康管理システムを用いて、それぞれの役割分担により健診事後対応を行っている。
笹澤様からは、『民間PHRの導入・活用の好事例』についてお話いただいた。好事例の事業所は小売業で、1店舗・50~100名の従業員にPC1台で健康情報伝達に時間がかかっていたが、PHR導入後、個人のスマホに健康情報が配信されることから特定保健指導対象者からの返信スピードや産業医連絡が3分の1短縮になるなど改善が見られた。
産業医科大学 産業生態科学研究所 産業保健経営学研究室 永田准教授 講演
『地域・中小企業の健康経営について』

産業医科大学の永田准教授からは、「地域・中小企業の健康経営」をテーマに、①「中小企業は健康経営に取り組む企業が少ない」、②「健康経営は、企業風土・組織風土を伝える最良の手段である」、③「健康経営のPR(情報開示と社内外との対話)も大切」という3つを重要なメッセージとしてご講演いただいた。
- 「中小企業は健康経営に取り組む企業が少ない」
中小企業法人の健康経営優良法人認定は年々増加しているものの、全体の0.6%程度に過ぎない。しかしながら、健康経営に取り組む中小企業社長からは健康経営の効果として、コミュニケーション促進、離職率低下、安全に対する意識の高まり、採用場面での競争力、金融機関からの評価などアンケート回答いただいており、認定率0.6%という未成熟マーケットだからこそ、「今取り組むことが差別化につながる」と話された。 - 「健康経営は、企業風土・組織風土を伝える最良の手段」
健康施策の参加率を最も左右するのは、「従業員が“会社から大切にされている”と感じる度合い(POS)」という報告がある。POSが高い会社ほど、「従業員の参加率が高い」、「健康施策の成果が出る」、「最終的に企業業績にもつながる」。また、POSは健康だけでなく、安全風土や組織の一体感にも影響を及ぼす。 - 「健康経営のPR(情報開示と社内外との対話)も大切」
健康経営の情報開示について、社長の85%が賛成し開示していると回答したが、実際に確認すると内容開示は多くない。健康経営の情報開示による採用効果について調べたところ、開示なしの企業に比べ、「ロゴ掲載のみ:1.5倍」、「取り組み内容・成果の詳細開示:2.82倍」の採用メリットがあることがわかった。求職者・地域住民・従業員が知りたいのは、「どんな会社で、どんな雰囲気で、従業員はどう感じているのか」という点で、単なる認定ロゴではないと話された。
産業保健の視点から将来展望
健康経営は、「労働力不足」、「地域の健康寿命延伸」、「安全衛生」といった社会課題にも貢献し得る。 さらに、PHR(パーソナルヘルスレコード)の活用は避けて通れず、データ連携が今後の鍵になると締めくくった。
健康経営・データヘルスに熱心に取り組む、岐阜県企業・健保21名、愛知県企業・健保17名、会員団体23名など、合計73名にご参加いただき、盛況のうちに閉会となりました。





